がん細胞はどんな悪条件にもかかわらず、どんどんたくましく、際限なく増殖していくようなイメージを持たれるかもしれませんが、少し違うのです。がん細胞自体、実験室で培養してみますと、意外に死にやすいデリケートな細胞なのです。放っておいてもがんがん増えるという感じではありません。結構まめに面倒を見なければ、死んでしまう細胞なのです。私自身も、もともとは悪性脳腫瘍の専門家として、長く臨床と研究に携わってきていますので、折に触れがんとは何なのだろうと20年あまりに渡って、自問自答してきていますが、がん細胞の存在自体が自己矛盾なのだと思えてなりません。体内でがんが勢力を大きくして行けば行くほど、結局は宿主(患者さん)が早く死ぬことになってしまって、同時にがんも死んでしまうのです。繁栄するために増殖するのだとすれば、話が合わなくなってしまいます。がんが増殖することは、まったく合目的ではないということになります。がん細胞はもともと、無限に増殖することを目的として発生するのではなくて、いずれは自殺(アポトーシス)するために発生したのではないかと私は考えています。がん細胞は意外にも、自殺(アポトーシス)しやすい細胞なのです。

がんが際限なく意図的に増殖しているように見えるのはまったくの錯覚で、患者さんが考え方をはじめ、今までの生活習慣を改めないから、あるいは、いたずらに免疫力をおとしめる対症療法を受けるから、結果として、単に惰性でがん細胞が増えているにすぎないのではないかと思うのです。現に、今までの考え方を改めて節制した患者さんや医者に見放され自分でなんとかするしかないと決意した患者さん、対症療法を積極的に受けなかった患者さんに自然退縮(自然にがんが縮小あるいは、消滅すること)が多いのは、説明がつくかと思います。

がんの発生は、一種のイエローカードなのかもしれません。今までの考え方、生活習慣を根本的に改めよという警告なのかもしれません。我々に諫言しているのかもしれません。再三の警告にもかかわらず、悔い改めることをしない方は、そのために不幸な転機をとりますが、きっちりと反省し、潔く悔い改めた方は治癒という方向に向かうのではと考えます。

こんな例だとわかりやすいかもしれません。たとえば、がん細胞を暴走族と考えてみてください。元々は真面目だった青年が、社会の荒廃・退廃の結果はみだし、暴走族となってやり場のないエネルギーを発散させている状態。その存在は、社会へのイエローカードなのです。暴走族をやっきになって取り締まることも、それなりの意味はあるでしょうが、根本的な解決にはなりません。時間はかかりますが、まちがった社会を健全な社会に変えることにより、暴走族は自然に消失するのです。

話を戻しますが、がんは諫言です。その諫言が聞き入れられれば、存在価値を失い、自然に消失するのです。