医学はとんでもないスピードで進歩しているように喧伝されているようですが、残念ながらそれほどでもないのかもしれません。学問としての医学は進歩しているのかもしれませんが、患者さんに還元される医療に関してはほとんど進歩していないというほうが正確です。

実際に、医療が進歩していると言えるのは、限られた狭い範囲にだけに言えることで、がんを始めとする慢性疾患の治療成績に関しては、ほとんど進歩がみられないといっても過言ではないと思います。特に、単なる延命だけではなく、QOL(生活の質)を著しく損なわない実質上の寿命の延長ということに関しては、ほとんど改善されていないように思われます。確かに、胃がん、子宮頚部がんなど、一部のがんの診断に関しては進歩がみられ、以前にくらべ早期のがんがみつかるようになりました。そのために、一見治療効果が上がったかのような錯覚に陥るのですが、実は、単に、より早期のがんが発見されるようになったために、見かけ上、がんの生存率が上がったかのように映るだけなのです。つまり、ある程度進んだがんに対する治療成績には、はっきりとした改善がみられないというのが実態です。がんの治療方法に関しては、具体的かつ抜本的な打開策をみいだすために、今よりももっと多くの資金とエネルギー・人材が注がれてもいいかと、強く望むところです。

"がん"そのものを専門にする、いわゆる"がん専門医"がほとんどいないのも西洋医学の大きな欠点の1つでもあります。専門といえば、臓器を指し示す、そんな考え自体が、がん治療の向上を阻む大きな原因となっているのです。もちろん抗がん剤のプロフェッショナルや、放射線治療のプロフェッショナルはたくさんいるのですが、全身病として"がん"というものを捉え、総合的に治療をする医者は残念ながら極めて少数なのです。欧米では、最近ようやく"がん専門医"というスペシャリストが出現してきましたが、まだまだそれほど一般的ではありません。欧米よりも遅れをとる日本においては、がん専門医などほとんど皆無な状態です。人間全体を総合的に診るのではなく、臓器だけを診る、そういった診かたを根本的に改めなくてはならない時期にきていると思います。 e-クリニックは、専門を異にするドクターが集り運営していますが、患者を臓器別に診ることの限界と誤謬を感じて、現在、人間全体を診る手法のトレーニングと研鑚に励んでいます。急性疾患や外傷の場合であれば、臓器そのものを診れば事足りる場合もあるのでしょうが、慢性的な疾患、生活習慣や考え方が主な原因となる疾患などは、人間全体を診なければあまり意味がないのだということに、ドクターもそろそろ気づかなければなりません

がん、とりわけ中等度以上に進行してしまったがんに対しては、対症療法を積極的に行ったとしても、わずかな延命効果しか得られないのが現状で、そのわずかな延命効果も、多大な苦痛と忍耐を代償にしてやっと得られるかどうかという非常に厳しいレベルなのです。

本当にがんの研究、治療が進んでいるのであれば、30万人もの方が毎年、がんで亡くなり、しかも、毎年5000人も死亡数が増えつづけることは無いはずです。単に高齢化が進んだためにがん患者が増え、がんで亡くなる方が増えたという見方は欺瞞以外のなにものでもないと考えます。

がんから確実に生還できる保障があるのならば、いかなる代償を支払っても、その苦しみや忍耐は報われるかもしれませんが、現在、一般的におこなわれているがん治療を公正に評価してみても、得られるものに比較して、失われる犠牲の方があまりにも大きいのではないでしょうか。心配しなくても大丈夫、がんならドクターに任せておけ、とは言えないのが恥ずかしいのですが、現実なのです。